【人事担当者必見】うつ病と診断された従業員から労災申請の依頼を受けたら?
社会保険労務士の山口です。
近年、仕事によるストレスが関係した精神障害についての労災請求が増えているそうです。厚生労働省によると請求件数は平成29年度で1732件でしたが、令和3年度は2346件となり、3割程増加しています。そのうち「業務上」と認定された件数は平成29年度で506件(平成29年度請求件数の29.2%)、令和3年度で629件(令和3年度請求件数の26.8%)となっています。
【参照】「令和3年度精神障害に関する事案の労災補償状況」厚生労働省HP
静岡市を中心に活動する弊社の顧問先からも
「精神疾患に罹患した従業員から労災請求を依頼された」との相談が増えています。
◆従業員がうつ病の診断書をもってきた
ある従業員から「仕事が原因でうつ病になりました。労災申請したいです。」と言われている、どうすればいいですかとの相談がありました。
その従業員は以前から会社に対し、自分が配属された部署や部署での業務に関する悪口を言う事が度々ありました。そのたびに部署異動の要求をしてくるので、会社はその要求に応じて数度の部署異動を行いましたが、いよいよ受け入れてくれる部署がなくなり対応に困っているところでした。
◆業務と疾患の因果関係を確認できなかった
従業員の疾患と業務の因果関係を調査するようにしてもらった所、「疾患と業務の因果関係を確認できなかった」との調査結果。次の旨を労働者に伝えてもらいました。
「調査をおこなったところ、あなたの病気と業務との因果関係が確認できませんでしたので、事業主証明は行うことができません」
「労働者が事業主証明を受けることなく労災請求を行うことはできるので、労働基準監督署に相談してみてください」
実際にこの従業員が労働基準監督署へ相談をしたかどうかは不明ですが、これ以降当該従業員からうつ病についての労災請求の話をされることはなくなりました。
◆客観的な事実に基づき事業主証明を行うか否かの判断を
精神疾患は業務以外の出来事が影響していることもあります。会社は業務と疾患の因果関係の有無を冷静に判断し、事業主証明を行うべきかを判断する必要があります。
◆労働災害に該当する事実を確認した場合には?
業務と疾患の因果関係を確認した場合には、
労災様式に事業主証明を行い、労働者が労災請求をスムーズに行うことができるよう助力してあげましょう。
◆労働災害に該当する事実を確認できなかった場合には?
業務と疾患の因果関係を確認することができなかった場合には、その旨を労働者に伝えます。なお、事業主証明がない場合でも労災請求を行うことは可能ですので、労働基準監督署へ相談してもらうように伝えると良いでしょう。
労災申請に必要な労働保険番号は伝えてあげてください。
◆労災請求は事業主の助力義務あり
「労災保険給付を受けるべき者が、事故のため、自ら保険給付の請求その他の手続きを行うことが困難である場合には、事業主は、その手続を行うことができるように助力しなければならない。(労働者災害補償保険法施行規則23条)」と定められており、労働者が労災請求を求めた場合には、事業主が協力する義務があります。
◆事業主証明は必ずしなければならないのか?
「事業主は、労災保険給付を受けるべき者から保険給付を受けるために必要な証明を求められたときは、速やかに証明をしなければならない」(労働者災害補償保険法施行規則23条2項)と定められており、保険給付を受けるべき労働災害に基づく労災請求については事業主証明を行う義務があります。
◆労働災害に該当するかを認定するのは労働基準監督署です。
会社が相談を受けた段階で労災に該当するか該当しないかを判断するのはおすすめしません。労働者からの労災申請の請求があった場合には、まずは申請をすすめてもらい、労働基準監督署の判断に委ねるのがよいでしょう。
厚生労働省は労災認定の基準として「心理的の負荷による精神障害の認定基準」を定め公開しています。具体的には3つの要件が定められており、次の全てを満たす場合に限り労災認定が行われます。
- 認定基準の対象となる精神障害を発病していること
- 認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6ヶ月の間に、業務による強い心理的不可が認められること
- 業務以外の心理的不可や個体側要因により発病したとは認められないこと
【参照】「精神障害の労災認定(R2.9改訂)」(厚生労働省HP)
【関連記事】「うつ病などの精神疾患が労災認定されるケースは?」(第一グループHP)